うつと栄養
・エネルギー過剰摂取
うつ病は、肥満、メタボリック症候群、糖尿病など一般的にエネルギーの過剰摂取が主因となって引き起こされる病態と双方向性の関連性があります。これらの代謝異常がうつ病リスクを高めるだけでなく、うつ病に罹患すると将来、肥満、メタボリック症候群、糖尿病になるリスクが高まります。運動はうつ病のリスクを下げ、治療効果もあることを示すエビデンスが確立しています。
・ビタミン
ビタミンB1,B6,B12,葉酸,Dなどとうつ病との関連が指摘されています。特に、エビデンスが多いのは葉酸であり、うつ病患者さんにとって葉酸値の測定は必須です。減少している場合は補充する必要があります。またうつ病患者さんはビタミンD濃度が低い傾向があることがメタアナリシスによって明らかにされています。ビタミンDは紫外線に暴露することによって産生されるため、季節性うつ病との関連が指摘されており、サプリメントが有効であったという報告もあります。
・アミノ酸
アミノ酸については、不可欠アミノ酸であるトリプトファンは神経伝達物質であるセロトニンや睡眠を誘発するメラトニンの減量となります。トリプトファンが減少すると、うつ病患者や靭湯の訴因をもつ者は気分の落ち込みを引き起こす可能性が古くから指摘されています。ただし、トリプトファンの補充療法の臨床研究では、有効性のエビデンスは乏しいとされています。メチオニンとうつ病の関連も指摘されており、活性型メチオニンはうつ病に有効であるとされ、ヨーロッパでは処方薬として用いられており、北米ではOTC医薬品として市販されています。
・ミネラル
鉄は不足しがちなミネラルです(特に月経のある女性)。30~40代女性の20%以上でヘモグロビン(血色素)値が基準値よりも低値でした。ヘモグロビン値や血清鉄だけでなく、貯蔵鉄の指標となる血清フェリチン値は潜在的鉄欠乏の指標となるため、チェックする必要があります。むずむず脚症候群ではフェリチン値が低下している者が多く、ドパミン作動薬が有効であることから、鉄が脳内のドパミンなどの機能に関与することが考えられます。貧血を呈している産褥期の母親に鉄のサプリメントを投与するとうつ症状を軽減させたという報告もあり、血清鉄やフェリチン値をチェックし、食事療法や鉄材による治療を行うことがうつ病症状改善に有効であると考えられています。亜鉛も不足しがちなミネラルです。リンを含む食品添加物は亜鉛の吸収を阻害します。亜鉛は蛋白合成やシナプス機能に重要です。亜鉛欠乏とうつ病リスクの報告もあり、血清亜鉛値についてもチェックしておく必要があります。そのほか、マグネシウムとうつ病の関連も指摘されています。
・プロバイオティクス
乳酸菌飲料やヨーグルトなどの生きた乳酸菌やビフィズス菌を含み、腸内細菌叢(腸内フローラ)を改善する効果が期待できる食品をプロバイオティクスといい、食物繊維やオリゴ糖など、このような腸内細菌の成長を促す作用をもつものをプレバイオティクスといいます。こうした食品による腸内細菌叢の改善は、視床下部ー下垂体ー副腎系のストレス応答を軽減させる効果などが報告されており、うつ病に対する効果も期待されています。特に、大うつ病患者さんのおよそ30%が過敏性腸症候群を合併するとされ、過敏性腸症候群は、上述の善玉菌の減少との関連が指摘されています。こうした患者さんには、プロバイオティクスやプレバイオティクスを積極的に摂取するよう指導するほか、ビフィズス菌やラクトミン製剤、酪酸菌などの活性生菌製剤(ビオフェルミンやラックビー)の使用を積極的に考慮することが良いとされています。
・嗜好品
緑茶はカフェイン、カテキン、テアニンなどの薬効成分を含み、薬用植物の1つとみなすことができます。緑茶を1日4杯以上飲む人は、1日1杯以下である人と比べるてうつ症状を呈するリスクが低かったとの報告があります。コーヒーをよく飲むとうつ病リスクが低下する可能性が示唆されています。
精神科治療学Vol30No5May2015